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2004.03.01

日本の音楽産業の将来展望

【過去のTB元】 [音楽の輸入権に絡む著作権法改正について]
 
 
 普段、くだらない内容でお茶を濁している本ブログですが、たまには真面目な内容も書いてみようと思います。ということで、CKさんのブログ記事にトラックバックさせていただきました。元エントリーは、「輸入盤の還流防止に関する著作権法改正」について、現在の日本の音楽産業を取り巻く状況も含めて簡潔にまとまった内容です。
 
 この件は、音楽のデジタル化と流通構造・消費者嗜好の多様化という構造的な変化について行けない業界が上げた断末魔の叫びといったもので、勉強も見識も不足した横槍を通そうとしたため、当然の如く批判が雨あられと殺到した話ですね。CKさんを含めネット上でも知識と見識の素晴らしい方々があちこちで書かれているので、今さら書くようなこともないとは思ったのですが、一音楽好きとして少し内容を整理しておこうというのが、これを書く動機です。冗長で目新しい切り口が無いところはご容赦を。
 
 
1. 現状の再確認
 
 CKさんの元記事にもある通り、諸報道によって「CD等々の旧来メディアの売り上げが下降線、その分が携帯電話の使用料金へ流れている」ということがよく言われています。試しにデータを再確認してみましょう。まず(社)日本レコード協会発表のデータより年間生産実績【単位:千枚】でこんな感じ。
 
1998年 邦: 386,388 (前年比:101%) 洋: 93,788 (前年比: 94%)
1999年 邦: 361,241 (前年比: 93%) 洋: 83,110 (前年比: 89%)
2000年 邦: 352,875 (前年比: 98%) 洋: 80,265 (前年比: 97%)
2001年 邦: 306,546 (前年比: 87%) 洋: 78,537 (前年比: 98%)
2002年 邦: 263,968 (前年比: 86%) 洋: 78,379 (前年比:100%)

  
 確かに市場の縮小傾向は顕著ながら、邦楽・洋楽の比較をしてみると、明らかに邦楽側での売り上げの落ち方が深刻。これは売り上げ金額ではなく生産数量のデータだから、廉価なブーメラン輸入盤の影響というよりも需要自体の縮小が大きく影響を及ぼしていることが明らかになって来ます。
 
 さらに邦楽の方のシングル・アルバム生産数量の内訳を見てみましょう。
 
1998年 アルバム: 210,669 (前年比:110%) シングル: 153,216 (前年比: 92%)
1999年 アルバム: 195,751 (前年比: 93%) シングル: 145,429 (前年比: 95%)
2000年 アルバム: 197,685 (前年比:101%) シングル: 136,492 (前年比: 94%)
2001年 アルバム: 182,777 (前年比: 92%) シングル: 107,582 (前年比: 79%)
2002年 アルバム: 169,303 (前年比: 93%) シングル: 81.172 (前年比: 76%)
 
 
 日本は欧米に比べるとシングル偏重の市場構造が特徴的で、近年のマキシ・シングルの浸透が図らずも明らかにした通り、従来の12cmシングルというほぼ日本独自の規格がそれを象徴していました。欧米のレコード会社・購買客があくまでもアルバムをメインの商品と見なすのに対し、日本ではアルバム=ヒットしたシングル曲のコンピレーション盤といった性格が強かったわけです。しかし、このデータを見ると、ここ最近の売り上げ不振は特にシングル盤の不振によっていることが見て取れます。
 
(※ちなみに、この日本レコード協会さま、「私的使用以外の目的で複製することはできません」「当サイトへリンクをされる場合はメールにてご一報ください」とのこと。したがって、その他の参照元については後日リンクを貼る予定ながら、ここだけは将来的にもリンク無し。興味がある方はググってみてください。)
 
 
 同時に、雑誌・漫画・ゲームの全てにおいても、売り上げの不振が伝えられています。ここでは代表して、書籍と雑誌の推定販売額【億円】を眺めてみますか。
 
1998年 書籍: 10,100 (前年比: 94.1%) 雑誌: 15,315 (前年比: 97.9%)
1999年 書籍: 9,936 (前年比: 98.4%) 雑誌: 14,672 (前年比: 95.8%)
2000年 書籍: 9,706 (前年比: 97.7%) 雑誌: 14,260 (前年比: 97.2%)
2001年 書籍: 9,415 (前年比: 97.0%) 雑誌: 13,861 (前年比: 96.7%)
2002年 書籍: 9,490 (前年比:100.4%) 雑誌: 13,615 (前年比: 98.7%)

 
 以上のデータは(社)全国出版協会 「出版月報」より。こちらはこちらで有料の冊子以外ではデータを公開していないようなので、JEPAという団体のホームページより孫引きしました。2002年の書籍売り上げの微増が少し意外ですが、ほぼ一定のあまり大きくない率での漸減が続いています。コンテンツ産業は成熟すると、ニーズが細分化されて行くのと同時に市場が縮小して行く衰退期を迎えるわけですが、書籍類は衰退期、音楽メディアはピークを過ぎて衰退へと向かう移行期にあると言えるでしょう。
 
 では、縮小して行った需要が本当に携帯やネットへ向かったのか。最後に、電通総研の「生活・情報利用調査レポート2003」を眺めてみます。714名の母集団へのアンケート調査による、各メディアへの平均接触時間【分/日】の変化は以下の通り。
 
携帯(通信) 2000年: 9.9 2002年: 21.5 (217%) 
携帯(通信) 2000年: 19.0 2002年: 16.8 (88%)
テレビ 2000年: 183.2 2002年: 193.4 (106%)
インターネット: 2000年: 17.0 2002年: 25.2 (148%)
音楽: 2000年: 32.9 2002年: 32.3 (98%)
書籍: 2000年: 28.6 2002年: 26.1 (91%)
雑誌: 2000年: 14.6 2002年: 14.0 (96%)
漫画: 2000年: 9.7 2002年: 8.1 (84%)

  
 標本数が少ないかなという点、時間の比率=消費金額とは言えない点で判断が難しいデータではありますが、この調査では他にもお小遣いの内訳をも追っており、大よそ議論されているような傾向(携帯・ネット↑、書籍・CD↓)がデータにも表れています。2002年時点で全ての層で支出第1位が携帯電話料金となっており、10代の支出が音楽・カラオケ・雑誌・漫画→携帯電話へシフトした状況もほぼデータと一致しているようです。

 一方で、市場は萌芽期→成長期→成熟期(コモデティ化:商品間の差異がほぼ消滅、激しいコスト競争に突入)→衰退期→固定期とサイクルを移していくものなので、携帯電話についてもこれから成熟期を迎える時期に入って来ている模様です。新たなコンテンツが現れてまたシェアが変化する可能性はあるものの、1997年から2002年にかけての支出推移データによる変化によれば、
 
 携帯電話: 普及率の上昇を受けて2000年までは急伸したが、その後は伸びが穏やかに。普及率の飽和を背景に今後の支出の伸びは期待しにくい。
 音楽CD: セルからレンタルに若干移動する程度。
 書籍:減少は大きいが、下げ方は徐々に落ち着きつつあり、下げ止まりも近いだろう。
 雑誌・漫画: ほぼ安定。 
 カラオケ: 単価の低下、客数の減少のダブルパンチで縮小中。
 
 
 全体的に言えるのが、客単価の低下傾向であり、デフレ状況下で一般的に財布のひもが固くなっているということ。これについても電通総研のレポートで触れられている通りで、成熟期に達しつつある各市場において考えられる選択肢は以下の3点程度。
 
 - マニア向けのニッチなセグメントを攻めることで顧客に新奇な印象を与える
 
 - ブランド性を高めて購買意欲を高める
 
 - スケールメリットの追求でコストを削減し、客単価の低下をカバーする
 
 前2者が購買意欲を高めて客単価を上げるか、新たな顧客層を開拓する方法論になります。これは今後の音楽産業にも大いに当てはまる部分ですが、音楽産業独自の特徴的な動きを背景にして、後半でその今後についてまとめておきたいと思います。
 
 
2. 産業の構造変化
 
 今、音楽業界を語る上で欠かせないタームといえば、iTunes。ダウンロード・ビジネスが業界の将来を担うとされながらも、不正コピー・ダウンロードに絡んで迷走する中、ようやく事態が収束していく方向が見えてきたというところでしょうか。しかしながら、現在、まだAppleの収益源はあくまでもiPod。ここら辺は、ブログ「梅田望夫・英語で読むITトレンド」でもエントリー「iPodはハードウェアビジネスの常識を越えるのか」で触れられていますが、キャノン等のプリンタのビジネスモデルの逆。プリンタ(→iTunes)の利潤を削って、インク・カートリッジ(→iPod)で儲ける方法論ですね。
 
 注目を集めるiPod周辺に関してメディアも盛んに報じているわけですが、Rolling Stone誌のインタビュー記事(2003年12月)を読んでみると、CEOのSteve Jobsの発言が今後の音楽産業に対して幾つかの示唆に富んだ内容となっています。
 
 "The winners are paying for the losers, and the wineers are not seeing rewards commesurate with their success. And so they get upset. So what's the remedy?"
 
 "The accounting will be simple: We're gonna pay you not on profits -- we're gonna pay you off revenues."

 
 実はエンターテイメント系の産業はその他のビジネスに比べても博打的要素が高く、ヒット商品の開発・予測が大変難しいです。そのため、従来のビジネスモデルでは大量の広告費を投じてヒットを出す確率を上げ、大量のアーティストを契約で抱え込んでリスクを分散する一方、成功したアーティストの売り上げでそれ以外の人達を食わせるという方法論だったわけですね。アメリカでは大抵の会社で売り出したCDの20%以下がコストを回収できていないと言われており、1枚のCDの広告・製作費は平均30万ドル。もし、自分のCD売り上げだけで食べなければならない場合、10万枚売れないとそのアーティストは赤字になるという計算です。その辺りを踏まえた発言なわけですね。一方で、
 
 "(So you see the recording industry moving in that direction?) -- No. I said: I think that's the remedy. Will the patient swallow the mdeicine is another question." 
 
とも言っていますが、近いか遠いかは別にして、将来的には「個々のアーティストが自身の売り上げに比例した収入を得る」というモデルが一般的になるという予測が成り立ちます。最近でも、アーティスト独自のネットでの直接販売がトレンドとしてあり、雑誌「Snoozer」38号でも記事「ビッグ・アーティストがレーベルから逃げ始めた?!」で、Eagles、Pearl Jam、Natalie Merchantを例に言及されています。
 
 ナタリー・マーチャントは新作ソロ・アルバムを自分のレーベルからリリースするが、初回プレスは3万枚。5万枚売れれば黒字に転じると言う。メジャー・レーベルにいると50万枚売ってはじめて「成功」と見なされるのだから、この違いは大きい。 
 
 ちなみに、これはある程度評価が定まったアーティストならではの話で、新人にはキャリアのスタートに資金が必要なのは当然。また、リスク面で考えれば、複数のアーティストをプールして利益を再分配した方が、確率的にはお金が戻って来る率は高くなります。ただし、「Snoozer」の同記事でEaglesのマネージャーが言っている通り、
 
 「好きなときにレコードをリリース出来るし、値段も自分達で決められるし、中間にいる誰かが収入の80パーセントを持っていくこともない」
  
 つまり、業界の高コスト体制を無視できるので、中抜きで利潤が高くなるということ。しかも、リリース時期と言う点も看過できません。というのも、前述の通り、レコード会社は大量の広告費を投じているので、作品の完成時期に関わらずリリース時期が調整されるのが常。良質な作品がリリースの合間で省みられなかったという例も歴史上たくさんあります。
 
 他にiTunesには幾つかの先駆的な要素があるわけですが、以前も紹介したWiredの記事『「iTunes」のプレイリスト共有機能で問われる音楽センス』(Leander Kahney)でも明らかな通り、プレイリストというデジタル・データで顧客の嗜好が一目瞭然になるというのは大きい気がします。IT技術は、こういった分野で生きるものでもありますし。
 
 音楽業界の話ではないのですが、最近の不況下、日本で通信販売が2000年→2002年で10%伸びているという話があります。日経ビジネスの特集記事「メーカー直販の威力」(2004年1月19日)によると、成功している企業のポイントは
 
 1. 会社の知名度や規模より独創力で勝負
 2. 特定できる顧客の切実なニーズに耳を傾ける
 3. 作り手の思い入れで商品開発する
 4. 価格で訴えず、価値を説得する技を磨く
 5. ニッチ市場狙いから、大型ヒットが生まれる 

 
とか。この話はかなり音楽産業にも示唆的で、特に2や5の点で、デジタル・データによる顧客の嗜好が分析できるようになるというのは大きい気がします。
 
 上記の直販の成功例の場合、インターネットの発展が欠かせない要件となったわけですが、音楽業界では未だに「不正コピー」へのネガティブな反応という縛りから抜け切れていないところがあります。アメリカではドットバブル期の各種音楽ダウンロード・ビジネスの失敗を抜け出し、アップルの成功でやっと方向性が見えて来たかというところ。一方、日本の場合、状況はまだ過去の過去。再び、Jobsのインタビューに戻ってみると、
 
 "We have Ph.D.'s here , that know the stuff cold, and we don't believe it's possible to protect digital content."
 
 "Our position, from the beginning, was that 80% of that people stealing music online don't really want to be thieves."
 
 
 最近では、無料で手に入る不正コピーを防ぎようが無い、ならば、その手間を惜しませるような値段まで価格を落とすしかない、という方向性に認識が向かいつつあるようです。iTunesの場合、1曲約1ドル、アルバム1枚分で10ドル。今は利益が出ていないような価格設定ながら、当初まだ高いと言われていたこの金額で、今まで上手く行っていなかったsubscription(定期購読:月会費を払う)モデルを尻目に需要が喚起されたわけです。日本の音楽業界は未だにCCCDその他の旧態依然な既得権益を守ろうという発想にしがみついているようですが。Stanford大のLessig教授(法学)も"The Future of Ideas"の中で
 
 "In the responding to the shock that the INternet presents to copyright law, it is of course important to account for the increased exposure to theft. But the law must also draw a balance to assure that this proper response to an increased risk of theft does not simultaneously erase the important range of access and use rights traditionally protected inder copyright law."
 
と書いています。他にもアメリカがブロードバンド後進国となった原因としてNapster周辺の問題を例として挙げており(Washington Post "Who's Holding Back Broadband?" 2002.01.08 )、技術を阻害するような方向性を戒めています。こうした方向性は、日本でも何年先の話になるのか分かりませんが、将来的に流れを止められないところでしょう。日本の業界の偉い方々も早い内に頭の中味をパラダイムシフトした方が、成功できると思いますよ。
 
 もう一つ、iTunesがらみで気になるのが、曲単位での販売と言う点。Jobsのインタビューでは、
 
 "They said: We will let you distribute our albums as a whole, but not individual tracks. And we declined. We said: You know, our sotre is about giving the user that choice."
 
ということで、音楽業界の「曲をバラした販売、ノー!」という要望を退けたと語っています。LPからCDにメディアが移行する際に収録容量が増えたことが、アーティストへの作曲・レコーディングの負荷を増したとか、捨て曲率が増えてアルバムの品質が落ちたという議論があります。曲単位の配信が進むと、アルバムの位置づけが弱くなり、アーティストのクリエイティブな活動にも影響が及ぶという見方もあります。
 
 日本の場合、シングル偏重という土壌があるので、影響度はより少ないとは思いますが、先にイーグルスの例で挙げたようなリリース時期の柔軟性というのは大きいかもしれません。大掛かりな仕掛けを準備して売るというよりも、単価が安い分、次々に優れた曲をリリースしていくというスタイルで本来のアーティストの才能が際立っていくというようなことも考えられます。従来的な手法ももちろん残っていくとは思いますが。
 
 その他では、映画産業との比較がポイント。
 
 "You can see it at the theater, you can buy it on home video, you can buy on DVD. But you can also rent it at Blockbuster or Netflix. You can watch it on pay-per-view. You can also watch it on cable or network TV. There are a lot of ways to legally get a movie. There was only way to legally get music."
  
 ラジオやMTV、ライブがあるだろうという突っ込みはさておき、確かに配信のチャンネル種類が少ないという点は、音楽業界のメジャー数社による寡占が進んだ背景にあると思います。デジタル・データのやり取りという新たな大きいチャンネルが現れて、業界周辺が皆慌てているというわけですが、いつの時代もそういった変化はあり得ます。デジタル配信に加えてアメリカでキーとなっているもう一つの大きな変化の波として、小売ディスカウント勢力の台頭が見過ごせません。米タワーレコードの倒産が話題になりましたが、背景にはそういった時代の変化があります。New York Timesの記事"Big Stores Make Exclusive Deals to Bring in Music Buyers"(2003.12.29)によると、
 
 "Discount stores like Wal-Mart accounted for only 13.5 percent of music sales in1994, said Clark Benson, the chief executive of the Almighty Institue Music Retail, a Los Angels-based company that sells data about retailers to recor d labels. This year the figure is 34.8 percent."
 
 "Adding their(= electronics chains' like Best Buy and Circuit City) sales to the other mass marketers would probably raise that group's total more than 50 percent, said Geoff Mayfield, the director for charts and senior analyst at Billboard."

  
 アメリカではCD売り上げの1/3程度がCDショップ以外のディスカウント・ショップで売られるようになったということになります。これは客を引き込みたいスーパーや電器屋と、スーパー独自のキャンペーンのおかげで広告宣伝費を抑えられるレコード会社の利害が一致した結果ですね。記事内では、各店限定のアルバム、特別曲ダウンロードの特典等の例を紹介して、差別化を図っている話も挙げています。
 
 以上をまとめると、
 
- 新たな通路が現れる中、今までのように流通等々を全て管理下におくような寡占体制が維持できなくなる
 
- 他業界同様、デフレ影響は避けられず、時代錯誤な価格の維持は不可能(再販制度云々のことですよ、全く)
 
- マスに網をかけるというよりも、細分化された市場をカバーする、きめ細かい戦略が必要になる
 
 日本の社会の性質上、そうすぐに業界が変わるとは思えませんが、大量にお金をかけて一発を狙うというやり方は廃れて行かざるを得ない気がします。新たな技術や手法を利用してコストを落としながら、需要の掘り起こしとリスクの低減を狙うしかないのでは。
 
 
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たまには音楽のことなど。

投稿: 2004.03.01 02:59 in Music | 固定リンク

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